ノードストロームという、アメリカのデパートチェーンを知っている人は多いかもしれません。
顧客満足度が非常に高い会社で、もとは靴屋から始まりました。
その経営理念がユニークです。
「お客様の喜ぶことをしよう」
彼らが最も大切にする価値は、このひと言に凝縮されているのです。
ある日のこと、ノードストローム社の靴売り場に、一人の婦人がカタログを持参してやって来ました。
そして、ページを開いて1枚の写真をさして、「この靴をください」と言いました。
しかし、あいにくその靴は在庫が切れていて、置いてありませんでした。
こういう場合、普通はそのままお客様を帰しません。
似たような靴を引っ張り出して「こちらはいかがですか?」「こちらもよくお似合いになると思います」とすすめるものです。
しかし、その店員はそうしませんでした。
婦人客に在庫が切れていることを告げたあと、
「この靴がある場所はわかっています。どうぞご案内します。こちらです」と言いました。
どこへ行くのかと思ったら店を出て、表通りの向かい側にあるライバル店の前まで誘導し、そしてうやうやしく婦人に言いました。
「靴はここにございます。お客様、こちらでお求めください。」
これで婦人はすっかり感激し、店員に言いました。
「私はこんな素晴らしいサービスを受けたことがありません。私のためにここまでしてくれるあなたのお店を、これからもお抱えにしたい」
婦人は実際に、お店をお抱えにできるだけの大富豪だったのです。
むろん店員はそんなことなど知っていたわけではありません。
あくまでも婦人を落胆させたくない、喜んで帰ってもらおうという気持ちからしたことです。
ところが結果として、ライバル店にお客様を案内するという行為が、回り回って会社に利益をもたらせました。店員だって褒められたことでしょう。
涙の数だけ大きくなれる/木下晴弘
涙の数だけ大きくなれる! 明日を生きる「自分へのメッセージ」 [ 木下晴弘 ]