道をひらく 松下幸之助著
忍耐の徳
何事においても辛抱強さというものが大事だが、近頃はどうもこの忍耐の美徳というものがおろそかにされがちで、ちょっとした困難にも参って悲鳴をあげがちである。
そして、事(こと)志(こころざし)とちがった時には、それをこらえてさらに精進をし、さらに力を蓄えるという気迫がまるで乏しくなり、そのことの責任はすべて他にありとして、もっぱら人をののしり、社会を責める。
これは例えば、商売で品物が売れないのは、すべて世間が悪いからだというのと同じことで、これでは世間は誰も相手にしてくれないであろう、買うに足る品物であり、買って気持ちよいサービスでなければ、人は誰も買わないのである。
だから売れなければまずみずからを反省し、じっと辛抱をしてさらに精進努力をつづけ、人々に喜んで買っていただけるだけの実力というものを、養わなければならないのである。
車の心棒(しんぼう)が弱ければ、すぐに折れてガタガタになる。人間も辛抱がなければ、すぐに悲鳴をあげてグラグラになる。
おたがいに忍耐を一つの美徳として、辛抱強い働きをつづけてゆきたいものである。
ただ一人だけの小さな幸せに満足することなく、おたがいにこの国日本を満たす、大きな夢と確固とした志をもたねばならない。
長い伝統に培われた日本人本来の高い精神と私たちが今日までたくわえてきた自立力とを、いまこそ新たな時代にふさわしい新たな姿で、政治や経済、教育や文化に正しくよみがえらせたい。日本をいきいきとした民主主義の国にするために、この世界により大きな幸せをもたらすために。
今日は「忍耐の徳」です。
昔、おしんと言うドラマが国民的ドラマとして流行りました。忍耐を美徳として捉えたとても日本人気質のドラマです。
時代は変われども日本人として持っておきたい、日本の美しい心のひとつだと私は思います。
そのためにはやはり志(こころざし)を持つ必要があるのだと思います。それも単なる志ではダメです。禅語で言えば、「欣求(ごんぐ)の志」と言うことになるのですが、欣求とは積極的に願い、求めることです。
そんな志があればこそ、どんな困難な局面でも忍耐力が備わるのだと思います。
お客様に本当に喜んでもらいたいと言う欣求の志があればこそ、忍耐強く商品を改良したり、忍耐強くシステムを変更したり、忍耐強くお客様と向き合えるのだと思います。
言うは易し行うは難しですが、そんな我慢強さを人として備えたいものですね。
松下幸之助 仕事には哲学をもて
信頼して任せる
ぼくの今までの体験をいうと、任せきったですな。というのは任せ切るのがいちばん楽ですのや(笑)。任せきったために、失敗することもありましょうが、失敗の数よりも成功の数の方が多かった。お互いに神様やないんやから、ときには疑ってみたくもなりましょうけど、任せ切るという姿勢が根本になけりゃいかんでしょうな。100パーセント信じて任すということはなかかなできにくい。60パーセントは大丈夫やけど、後の40パーセントはどうかわからん。危惧の念もある。そやけど、そう言ったらしょうがないから、「きみやってくれよ。必ずできる。頼むわ」となるわけですな。(「中日新聞」昭和四十八年十月二十六日)