道をひらく 松下幸之助著
引きつける
磁石は鉄を引きつける。
何にも眼には見えないけれども、見えない力が引きつける。
自然に鉄を引き寄せる。
人が仕事をする。
その仕事をする心がけとして大事なことはいろいろあろうけれども
やっぱりいちばん大事なことは誠実あふれる熱意ではあるまいか。
知識も大事、才能も大事。
しかし、それがなければほんとうに仕事ができないというものでもない。
たとえ知識乏しく、才能が劣っていても
なんとかしてこの仕事をやりとげよう
なんとしてでもこの仕事をやりとげたい
そういう誠実な熱意にあふれていたならば
そこから必ずよい仕事が生まれてくる。
その人の手によって直接にできなくとも
その人の誠実な熱意が眼に見えない力となって
自然に周囲の人を引きつける。
磁石が鉄を引きつけるように
思わぬ加勢を引き寄せる。
そこから仕事ができてくる。
人の助けで、できてくる。
熱意なき人は描ける餅の如し。
知識も才能も、熱意がなければ無に等しいのである。
おたがいに一生懸命
精魂こめて毎日の仕事に打ち込みたい。
今日は「引きつける」です。
普段から私がよく言う言葉に、仕事=能力×努力×考え方の掛け算だと言っていますが、
能力は0〜100点、努力も0〜100点、いわゆるプラス点しかないと言うことです。
ですが考え方だけはマイナス点もありえる。
すなわちプラス×プラス×マイナスは合計がマイナスになることがあると言うことです。
今日の「引きつける」という話は同じように考えると、
仕事=知識×才能×熱意だと言うことなんだとおもいます。
従って、熱意だけはマイナス点が存在していて、
熱意が無ければいくら知識や才能が豊富であっても、仕事はマイナスになると言うことです。
知識や才能にはそれぞれ個人差や経験の差があるかとおもいますが、熱意には新人であろうが10年選手であろうが全く年数の差はありません。
仕事の能力を高めたければ、バランスよく知識や才能を少しづつ伸ばして行くことは必要ですが、この熱意というものを最大限高めておかなければなりません。
誠実な熱意が目に見えない力となって周りの人々を引きつけて、自分の仕事を成功に導けるのだとおもいます。
熱意こそアイデアの宝庫です。熱意こそ何事も突破できる力の源です。
誠実な熱意を日々磨きをかけたいものです。
松下幸之助 仕事には哲学をもて
作った製品に強い関心をもつ
私たちは、自分たちが手がけたものが世上でどのように扱われているか、強い関心を持たなければならないと思う。
私が昔、直接生産に従事していたとき、新しい代理店へ持参して見せると、「松下さん、これは苦心された品ですね」と言われたことがある。こう言われたとき、自分は無料で進呈したいと思ったほどうれしかった。
これは高く売れて儲かるという欲望意識でなくて、よくも数ヶ月の労苦を認めてくれたという純粋な感激だったのである。この感激は、常に己の魂の至誠を製品にこめる者のみが味わいうるものであり、この喜びに全社員がひたる時にこそ、わが松下電器が真に生産報国の実をあげ、確固たる社会信用を獲得することができるのである。(昭和二十一年一月十五日・松下電器経営方針発表会)