道をひらく 松下幸之助著
岐路に立ちつつも
動物園の動物は、食べる不安は何もない。他の動物から危害を加えられる心配も何もない。
きまった時間に、いろいろと栄養のある食べ物が与えられ、保護されたオリの中で、ねそべり、アクビをし、ゆうゆうたるものである。
しかしそれで彼らは喜んでいるのだろうか。
その心はわからないけれども、それでも彼らが、身の危険にされされながらも、果てしない原野を駆け巡っているときのしあわせを、時に心に浮かべているような気もするのである。
おたがいに、いっさい何の不安もなく、危険もなければ心配もなく、したがって苦心する必要もなければ努力する必要もない、そんな境遇にあこがれることがしばしばある。
しかしはたしてその境遇から力強い生きがいが生まれるだろうか。
やはり、次々と困難に直面し、右すべきか左すべきかの不安な岐路にたちつつも、あらゆる力を傾けて、命をかけてそれを切りぬけてゆくーーそこにこそ人間としていちばん充実した張りのある生活があるともいえよう。
困難に心が弱くなったとき、こういうこともまた考えたい。
今日は「岐路に立ちつつも」です。
とかく人は安穏とした生活に憧れるように思います。何も起こらないことが最善なのかもしれませんが、そこには人間としての成長が果たしてあるのでしょうか?
自らを少しだけ高い目標や少しの困難を買って出るからこそ、その境遇を超える経験こそが人間を大きく成長させていくものだと私は思います。
苦労は若いうちに沢山経験してこそ人間としての厚みが深まり、どんな逆境も跳ね返せる精神力や方法論などが備わると信じています。
「乗り越えられない試練を神様は与えない」
この言葉はわたしが常に逆境に遭遇した時に思い出す言葉です。
是非若いうちに沢山の試練を経験し、負けることなく前進してみてください。
それは自己実現への最善の方法論です。
松下幸之助 仕事には哲学をもて
人間の心の動きをつかむ
人間の心というののは非常に変化性がある。今は非常に愉快に笑っているかと思うと、また次の瞬間に悲観するようなことが起こって来ればそうなる。それほど変化性がありますからね。そういう人間の心の動きの自在性というものを、経営者と言いますか、皆さんのように指導的な立場に立つ人は、よほどつかまねばいかんと思います。(昭和三十六年八月七日・松下電器幹部社員への講話)