道をひらく 松下幸之助著
ものの道理
人間おたがいに落着きを失ってくると、他人の庭の花が何となく赤く見えてきて、
コツコツまじめにやっているのを自分だけ、人はみなぬれ手でアワ、ラクをしながら何かボロイことをやっているように思えてならなくなる。
だから自分も何か一つと思いがちだが、そうは世間はゆるさない。
人情として、ときにこんな迷いを持つのもムリはないけれど、この世の中に、決してボロイことはないのである。
ラクなことはないのである。
あるように見えるのは、それはこちらの心の迷いで、
本当は、どなたさまも、やはり一歩一歩地道につみ重ねてきた着実な成果をあらわしておられるのである。
だから、努力もせずにぬれ手でアワみたいなことをやってみても、それは虫がよすぎるというもの。
一時はそれですごせても、決して長続きはしない。結局は失敗ということになる。
これが、ものの道理であって、この道理をはずれた望みを持つというのは、それこそ欲が深いというものである。欲が深いは失敗のもと。やはり、ものの道理に適した道を、一歩一歩あゆんでゆきたい。
今日は「ものの道理」です。
昔から「隣の芝は青い」と言う言葉があるように、とかく人のやっている事などは簡単にうまく行っているように見えがちです。果たして本当にそうなんでしょうか?
やはり、うまく行っている人はそれだけ人よりも何倍も隠れて努力しているからなんだと思います。
簡単に儲ける方法など絶対にあり得ません。
私達商売人は逆に簡単に儲けてはいけないのかもしれません。
私はバブルの時期を知っています。その時には確かに簡単に儲ける人が多くいていました。
しかし、その人達はほとんどの人が最終的には事業に失敗し残っていません。
「悪銭身につかず」で、簡単に儲けたお金は、簡単に無くなって行ったのだと思います。
昔から父親に言われたセリフに「ひたいに汗をかいた分だけお金を得なさい」とよく言われ、未だに私の心に残っています。
私達はお客様から大切な利益を頂戴しています。
やはり、その利益は私達が額に汗をかいた分だけ頂けばいいのではないかと思います。
人の事を羨ましく思うのではなく、自分に課せられた使命を一生懸命着実に行っていく事こそ尊い行為なのであり、そこに充実感が生まれてくるのだと思います。
松下幸之助 仕事には哲学をもて
私情にかられず、公明正大に
いやしくも大将というものは、私情にかられてはいかんということです。好き嫌いで人を使ってはいかんのですよ。ところが現実には、好き嫌いで人を使っている場合が多いものなんです。そういうところはみな失敗していますよ。その意味では、ぼくはこと仕事については、非常に公明正大だったですな。自分で言うのもおかしいけれど、断言できますな。この点については、従業員も認めていると思っています。(「30億」昭和五十一年五月号)