道をひらく 松下幸之助著
目次
人間だけが
この世の中、見方によってはすべて人と人との約束のうえに成り立っているといってもよい。 友人との待ち合わせの時間の約束から、金銭物品の貸借の約束、さらには社則や国家の法律というものもおたがいの生活を秩序だて円滑にするための一つの大事な約束事であるといってもよい。約束はおたがいの信用の上に花ひらく。 だからこれらの約束を守るか守らないかは、人間の精神の高まりを示す一つのバロメーターであって、道義とか道徳というものもこうしたところにその成果の如何をあらわしてくる。 自分に都合が悪くなったからといって、平気で約束をやぶるというのは、これはまさに動物の世界。 人間だけが、おたがいにかわした約束はこれをキチンと守るという天与の高い精神の働きを持っているのである。 もしもこの精神が力弱くなったら、その影響は社会生活のあらゆる面に物心ともの大きなマイナスとなってあらわれてくる。 単に待ち合わせの時間をムダにするというようなことだけでは事はすまないであろう。 おたがいに、約束は守りたい。 今日は「人間だけが」です。 人として大事にしておかなければならない行動に「約束を守る」という最も大事な原理原則の行動があるのではないかと思います。私たちはお得意様先から信頼され、仲間から信用されないと私たち自身の存在意義はありません。 その基礎となるのが「約束を守る」なんだと思います。特に小さな約束はとかく何かの理由をつけて守られないことも多く、また小さな約束だから少しは相手も許してくれると思いがちです。 ちょっとした小さな約束をしてしまった時こそ、その約束をきちんと守れるかが、人として本当に信頼できる人間かを見られる瞬間なんです。逆に守れない時は勇気を持って約束しない事も大事なんだと思います。 安請け合いこそ最もしてはいけない行動です。
人心に潤いを与え、文化を高めるもの
広告宣伝というものは、今日、単に商品や商売、企業のために必要だということだけでなく、人々の心に潤いを与え、世の中を明るくし、さらには文化を向上させるという役割を担っているのです。
私がいささか気になるのは、単に売れさえすればいいということではないにしても、目新しいものに心を奪われるあまりというか、その形にとらわれて、広告宣伝の本義、本質が忘れられている面があるのではないかということです。
広告宣伝というものは、単にそれによって商品やサービスが売れればいいというのではなく、人々の心を豊かにし、生活や文化を高めていく何らかの要素を含んだものでなければならない。
(「年間OAC」82年版 昭和57年3月)