道をひらく 松下幸之助著
しかも早く
ものごとを、ていねいに、念入りに点検しつくしたうえにもさらに点検して万全のスキなく仕上げるということはこれはいかなる場合にも大事である。
小事をおろそかにして、大事はなしとげられない。
どんな小事にでもいつも綿密にして念入りな心くばりが求められるのである。
しかし、ものごとを念入りにやったがためにそれだけよけいに時間がかかったというのではこれはほんとうに事を成したとはいえないであろう。
むかしの名人芸は、時は第二の問題であった。
時間は二の次、それよりも万全のスキなき仕上げを誇ったのである。
徳川時代の悠長な時代ならば、それも心のこもったものとして 人から喜ばれもしようが今日は、時は金なりの時代である。
一刻一秒が尊いのである。貴重なのである。
だから念入りなこころくばりがあってしかもそれが今までよりもさらに早くできるというのでなければほんとうに事を成したとはいえないしまた本当に人に喜ばれもしないのである。
早いけれども雑だというのもいけないし、ていねいだがおそいというのもいけない。
念いりに、しかも早くというのが今日の名人芸なのである。
今日は「しかも早く」です。
仕事は丁寧にやることはもちろんのことです。
間違いのない方法で、さらにチェックダブルチェック体制をとることはとても重要です。
しかし、何事も丁寧にやればいいということでもありません。
インターネット時代は「先んずれば人を制す」です。
仕事を測るスケールは、その質と量です。
質ばかりを追いかけると量が減ります。
量を追いかけると間違いなどが起こり質を低下させます。
私達プロの仕事人はこの相反する質と量という課題を両立させなければなりません。
そのためには、常に仕事の質をチェックできる体制を自分自身にも組織にも持ちながら、多くの仕事を行なっていくスキルを磨かなければ今の時代に通用しません。
本当にやらなければならないことは何なのかをきちんと理解し、間違いない仕事を心がけ、そのスピードを上げていく。
(やってはいけないことを最初に決めることも量を追いかける時にはとても大事です)
こんな力が今の時代に必要な力ではないかと思います。
松下幸之助 仕事には哲学をもて
技術者には柔軟な頭が必要
われわれはどんなことが入っても、それを詰まらせたらいけない、まだすきまをおいておく。なんぼでも次々と、海綿のごとく吸収していくというような頭にならなければ、頑固オヤジになってしまう。頑固オヤジにならなくても、”頑固な人だな、あれは技術者だから頑固者だな”と、こうなる。技術者ほど、ものを吸収しなければいけない。技術者ほど、すべてのものを取り入れるということにやぶさかでない者はないんだと、こういうような一面も私はあっていいと思うんですね。(昭和四十八年一月六日・松下電器在阪技術担当責任者対象講和会)